機械系のCAD業界で最近注目されている技術の一つに3D図面というものがあります。
今回は、この3D図面とは?や、なぜ3D図面が必要なのか?メリットは何なのか?3D図面によってCADオペレーターの仕事がどのように変わっていくか?など、機械系のCAD技術者として知っておくべき内容についてまとめてみました。
3D図面(3DA)とは?
3D図面とは、3DCADで作成した3Dモデルに幾何公差や表面性状などの様々な製造情報を付加したものになります。
3Dモデルに製造情報を注記として付加することから3DA(3D Annotation)と言ったり、製造情報のことをPMI(Product Manufacturing Information)と言ったりもします。
今までは3Dモデルをもとに別で2D図面を作成し、そこに製造情報を付けていたと思います。
それらの情報を3Dモデルに集約、一元化したものが3D図面と言います。
情報は可能な限り一元化するべきという思想のもと、3Dモデルと2D図面で分かれていた情報を3Dモデルに集約し、モノづくりをより効率化しようという取り組みになります。
3D図面は建築業界でいうBIMのようなもの
3D図面という言葉は主に機械系(航空宇宙、自動車、電機など)で用いられていますが、建築業界でも3D図面のような取り組みがあります。
建築業界では、それをBIM(Building Information Modeling)と言っています。
因みに土木業界ではCIM(Construction Information Modeling)と言います。
BIMについては国土交通省が推進しており、23年までにBIMに全面移行するという目標を掲げて活動しています。
国土交通省は企業に対しBIMに関するアンケートし、浸透状況や課題などをまとめてました。
その結果を以下にもまとめてありますので参考にしていただければと思います。
3D図面(3DA)のメリット
- 製造情報の読み取りの効率化
- 各種製造工程の自動化
- 製造見積もりの自動化
- ペーパーレス
今までの2D図面を3D図面にすることで得られるメリットを列挙すると上記のものがあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
製造情報の読み取りの効率化
2D図面を使ったモノづくりの際には、製造にかかわる様々な人が製造情報を読み取るために2D図面を見たり、それでも読み取れない場合は3Dモデルを見たりしていました。
要は製造情報を読み取るために2D図面と3Dモデルを行ったり来たりしていて、非効率でした。
それを3D図面として製造情報を3Dモデルに集約させることで行ったり来たりを無くすことができます。
逆に2D図面は大きな紙に印刷することで各矢視や断面などが一覧で把握することができたというメリットがありました。
3D図面になったからといって断面の情報は必要で存在するので、3D図面でも各矢視や断面を一覧で見れるようにや、見比べられるようにするのは一つの課題です。
各種製造工程の自動化
筆者としてはこれが一番の効果だと思いますが、例えば加工や検査といった製造工程で行われていたことが3D図面により自動化されます。
加工でいうと、幾何公差や表面性状、穴径、穴深さなど様々な情報を製造側で読み取り、製品加工するためのプログラムを作成し、加工機で加工します。
上記のプログラム作成においてはCAMオペレーターが図面と3Dモデルを読みながらCAMソフトに製造情報を入力し、求められる穴の精度によってドリルなのかリーマなのかの刃物選定や加工回数(荒加工⇒中仕上げ⇒仕上げ加工)の決定をしています。
3D図面になるとCAMソフト側で幾何公差や表面性状などの製造情報や穴径、穴深さなどの形状情報を読み取り、加工プログラムを自動作成してくれるのです。
今まで人間が手入力で作っていたプログラムがソフト側で自動作成してくれるということです。
人間は自動作成された加工プログラムをシュミレーションで確認し、図面通りのものができているかをチェックします。
もし加工プログラムが意図しない内容になっていれば人間が修正することもできますし、その修正もソフト側に機械学習させることで次からは自動化させることも可能でしょう。
この3D図面に対応し自動プログラム作成できるCAMソフトも増えてきていますし、CAMソフトでどこまで自動化できるの?というのはあるかもしれませんが、今後もこの自動化の方向は進んでいくでしょう。
今まで人間が考えてきたことが、ソフトや機械に任せられるのなら任せて自動化してしまい、人間はより付加価値のある、よりクリエイティブなことに時間を使うようになることが望ましいと考えます。
製造見積もりの自動化
3D図面をソフトに読み込ませると製造情報や形状情報から製造コストを自動で見積もってくれることも可能です。
類似技術としてミスミという世界最大級の部品サプライヤーが開発したのがMeviy(メヴィー)というものがあります。
これは3DモデルをMeviyにアップロードするとAIが形状を自動認識し、部品の見積もりをわずか3秒ぐらいで自動計算してくれるシステムです。
もし製造できない形状も出た場合、どういった形状だと製造できないかというデータもドンドン蓄積しAIが学習し、最終的には製造できるように改善されていきます。
このシステムにより、2D図面が不要になり、調達部門も見積もり依頼のための書類作成や送付などのペーパーワークから解放されます。
ペーパーレス
3D図面はDX(Digital Transformation)そのものです。
今まで、紙として印刷していた図面や各種帳票の情報を3Dモデルの中に一元的に集約させることで印刷不要になるでしょう。
もちろん情報を印刷しなくても業務が回るようにしなければいけませんが。
また情報が集約するがゆえにデータが重たくなったり、欲しい情報を見るのに時間がかかってしまってはいけませんので、そこも徐々に工夫がされていくでしょう。
- 紙のコスト削減
- プリンター、プロッターのインクコスト削減
- プリンター、プロッターの維持費、購入コスト削減
- 紙削減による環境保護
- デジタル化による自動化の推進
とにかく今までの紙中心の仕事の進め方をデジタル中心にすることで上記のようなメリットが見込めると思います。
3D図面はJEITAやJAMAが推進
日本では、各企業でも3D図面を進めていますが、JEITAやJAMAといった政府系機関も推進しています。
建築業界においてBIM推進を国土交通省が行っているのと同様です。
3D図面によって様々な標準化も必要ですし、仕事のやり方を変えるわけですから製品メーカーから部品メーカーなど今まで図面を使って仕事をしていた関係者に幅広く影響が出てきます。
そういった中で3D図面を推進していくためには企業の力だけではどうにもならないことも多く、国全体で対応していく必要があります。
JEITA、JAMAでも年に一度、3D図面に関するイベントやをホームページにて情報発信しているので見てみると良いでしょう。
海外での3D図面推進状況
海外でも欧米を中心に3D図面を推進しており、日本よりも進んでいる状況です。
もともとドイツのIndustry4.0の考えのもと工場の自動化するために3D図面の普及が加速した印象があります。
ドイツではシーメンスなどエンジニアリングソフトのビックカンパニーが工場の自動化を目指し様々なトライをしています。
3D図面もその中の一つの取り組みになります。
対してアメリカでもNIST(National Institute Standards and Technology)という日本でいう経産省のような政府系機関が3D図面活動を推進しています。
アメリカでは3D図面のことをMBDといっています。
このNISTでも年に一度、MBE Summitという3D図面の一大イベントを開催しています。
アメリカでは航空宇宙で3D図面が進んでいる印象です。
3D図面によりCADオペレーターの仕事はどう変わる?
今までご紹介してきた3D図面の進むことによりCADオペレーターの仕事はどのように変わるのでしょうか?
分かりやすいところでいうと、今まで3Dモデル、2D図面を作っていた仕事から、3Dモデル+3D図面を作るように変わるでしょう。
したがって、2D図面のみを作成していた仕事のニーズは減っていくでしょう。
これは機械業界による幅広い業界で起きている現象かと思います。
これは3D図面に限ったことではありませんが、ますます人間の作業は自動化されていく傾向にあります。
もちろん3D図面作成の作業も自動化がされていくでしょう。
ではCADオペレーターはどのようにキャリアアップをはかっていけば良いのでしょうか?
個人的にはCADスキル+αのスキルが必要だと思っています。
例えば複数のCADが使える、CAEも使える、設計も行える、CAD操作をプログラミングで自動化できる、などCADが使えるというスキルに加えて複数のスキルの掛け算で人材の市場価値を上げていくことが可能だと思います。
3D図面の課題
- CADソフトが3D図面作成に対応
- 後工程のソフトが3D図面を読み自動化できるようになる
- サプライチェーン全体への3D図面浸透
3D図面を推進していく上で課題が何もないわけでなく、上記のようなものが挙げられます。
ある意味、今までの仕事のやり方でも良いのではないか?という声も出てきそうですが、これは単純作業など可能な限り、ソフトや機械に任せ、人間でしかできない部分にシフトしていくという挑戦の一つだと思います。
何もせず他国に大きく水をあけられる前に今のうちから新しい技術への挑戦も行っていきたいものです。
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