今のものづくりに必要不可欠な存在であるCAD(Computer Aided Designの略)ですが、様々な種類があり、どの業界のCADも大きくは2次元CADと3次元CADに大別できます。
3次元CADは1990年代から徐々に浸透していき、どの企業でも2次元CADから3次元CADへの移行を目指してきました。
しかし2020年代の今でも完全に3次元CADに移行しきれたか?と言われると建築や機械、電気など業界ごとに様々な意見があります。
例えば設計側は3次元CADに完全移行できたものの、製造などの後工程にいくとまだ2次元CADが残っているなどもあるでしょう。
しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)などの技術が進んでいくにつれ、2次元CADで作成した図面はどんどん不要になっていくと思っています。
ここでは、20年以上デジタルエンジニアリング業界で働いている筆者が、いまだ2次元CADをメインで使っているユーザーを主に、2次元CADの仕事が消える理由や、その代わりに必要になる職種、そんな中でCADオペレーターとしてどうやって対処していけばよいかを書きたいと思います。
CADオペレーターの全体の仕事内容については以下の記事を参考にして頂ければ幸いです。
2DCADの仕事はそのうち無くなると予想しています
2DCADとは?どんなソフトがある?
2DCADとはコンピューター上で上記のような2次元の図面を描くためのソフトです。
2DCADが無かった時代は、ドラフターという道具を使って手書きで紙に図面を描いていました。
無料版の2DCADで人気があるのがJW_CADで、有料版だとAutoCADでしょう。
2DCADの仕事にはどんなものがある?
従来の2DCADの職種というと、2DCADオペレーターやトレーサーなどと呼ばれ、設計者の指示のもと、3Dデータをもとに2D図面を作成したり、紙図面の単純なデータ化などがありました。
具体的には、JW_CADやAutoCADといった2DCADを使って以下のような仕事するのです。
- 建築用図面の作成、修正
- 設備用図面の作成、修正
- 土木関係の図面作成、修正
求人サイトを見ると分かるのですが、働き方についても、正社員、派遣社員、パート、アルバイト、在宅勤務など様々なものがあり、また意外と40代、50代の求人もあります。
これは40代、50代の世代がちょうど、2DCADをメインで使っていた世代だからかもしれません。
しかし、今、2DCADオペレーターの求人があるからといって安心していてはいけないと思います。
なぜなら世の中は、どの業界でも3DCADに移行しているだけでなく、建築関係でいうとBIM、土木でいうとCIM、機械系でいうと3D図面(3DA)といった3Dモデルに様々な属性情報を持たせた3DCADの次の段階に移りつつあるからです。
BIM/CIMとは3Dモデルに部材の種類や材質、コスト等の属性情報を追加することで面積やコストの自動計算や設備のメンテナンス時期の自動アラートなど様々な事が自動化可能になります。
3D図面とは今までの3DモデルにPMI(Product Manufacturing Information)といった幾何公差など今まで2D図面に描かれていたモノづくりに使う情報を付与したものです。
3DAモデルは、3D Annotationモデルの略です。
歴史を振り返ると①ドラフター⇒②2DCAD⇒③3DCAD⇒④BIM/CIM、3D図面という順番に変化しています。
世の中は3DCADの次のフェーズに入っている
ではなぜ世の中はBIM/CIMや3D図面に移行しようとしているのでしょうか?
その背景には、今までのように図面や3Dモデルを人が読む(ヒューマンリーダブル)だけでなく、3Dモデルに付与した情報をソフトが読む(マシーンリーダブル)ことができるようになってきているからです。
- 例えばBIMでいうと3Dモデルの各部材にコスト情報も入力しておくとトータルコストを自動計算してくれます
- 3D図面では、モデルに属性として入力した幾何公差をソフト側が読み取り検査工程や加工工程の自動化が可能になります
他にも色々とありますが、ソフト側が読めるようにデジタル情報にすることで様々な事が自動化され生産性の向上につながります。
今まで別でソフトに情報を手入力して動かしていたことを、それらの情報をモデルに付与することで、今まで以上に自動化が可能となり、人は浮いた時間でよりクリエイティブなことをやったり、余暇が増えたりするわけです。
建築業界でのBIMの動向
国土交通省は23年までにBIMへの全面移行を目指している
建築業界での今後の人手不足の対策として国交省は23年までにBIMへの全面移行を旗揚げしています。
この目標は当初25年までとしていましたが、コロナの影響で2年前倒しされました。
また人手不足については、職人の高齢化に伴い2030年までに約100万人が減少すると言われており、これは2015年の職人330万人の1/3に相当する数になります。
更には日本の建築業界における生産性は、海外に比べ劣っており、BIMなどの建設テックを使うことでまだまだ伸びしろがあるのです。
上記のような背景もあり、今後、建築業界でBIMが普及していく理由です。
BIMが使えない企業は淘汰される可能性も
上記のような背景もあり、大手ゼネコンや設計事務所ではがBIMへの移行を推進している。
中にはBIM推進部のような特別な組織を立ち上げている企業もある。
今はBIMへの過渡期であるものの、今後これらの企業がBIMデータでの納品を取引条件にしてきたら、そこから仕事をもらっている企業は対応せざるを得ないでしょう。
これは、もし対応できない=BIMを使えない企業は淘汰されるということを意味しています。
機械系(自動車、電機)の3D図面の動向
JEITAやJAMAも3D図面を推進
電気業界でいうとJEITA(電子情報技術産業協会)が3D図面を推進しており、三次元CAD情報標準化専門委員会のホームページに色々と情報が載っているので見てみると良いでしょう。
自動車業界ではJAMA(一般社団法人 日本自動車工業会)でも3D図面を推進しており、3D図面の標準化に関わる活動のページで様々な資料がダウンロードできるようになってきています。
3D図面については2010年前後でも盛り上がりを見せていたのですが、その時は人が読むことを重視したものになっていました。
今はDXやAIといった周辺技術の進歩もあり、ソフト側で3D図面を読み自動化できる目途が立ってきたので、この活動も再燃しているという背景もあります。
ミスミのMeviy
ミスミという世界最大級の部品サプライヤーが開発したのがMeviy(メヴィー)という凄いシステムです。
これは3DモデルをMeviyにアップロードするとAIが形状を自動認識し、部品の見積もりをわずか3秒ぐらいで自動計算してくれます。
そして製造後、最短で1日で出荷してくれるのです。
製造方法も板金から切削加工などがあります。
中には製造できない形状も出てきてしまいますが、そこはAI駆動なのでどういった形状だと製造できないかというデータもドンドン蓄積されシステムとしても成長していくのです。
この画期的なシステムにより、2D図面が不要になり、調達部門も見積もり依頼のための書類作成や送付などのペーパーワークから解放されます。
おそらく将来的には3Dモデルに各種幾何公差などが入った3D図面にも対応し、もっと正確なモノづくりから見積もりまでできるようになるのでしょう。
このように既に2D図面が無くてもモノづくりが完結してしまっている世界が存在するとなると、2DCADを使った仕事が今後どうなるかは容易に予想がつくでしょう。
Meviyの詳細は以下の動画を観るとより理解が深まると思います。
aPrioriアプリオリの事例
先にご紹介したMeviyと似たようなことができるソフトも存在します。
少しお高いソフトですが、こちらもAIを実装しており、3Dモデルをアップロードし製造方法を選択するとコストが自動算出されます。
Meviyと少し異なるのは使い方で、aPrioriは設計段階で色々と形状変更しながら、その都度のコストを把握したり、原価を見積もるために使ったりするソフトです。
こちらは既に3D図面にも対応しています。
CADフォーマットもCreo、CATIA、NXなどの3大CADからSTEP、JTといった中間ファイルまで対応しています。
aPrioriの詳細は以下の動画を観ると理解が深まると思います。
CADトレース技能審査が廃止!その理由からみる仕事の将来性は?
CADトレース技能審査は、中央職業能力開発協会が平成9年から運営していた2DCADの資格です。
受験者数も約7万人近くになり、認知されていた資格ですが、平成29年に資格が廃止されました。
公式ホームページには、2DCADを取り巻く環境の変化から受験者数が減少の一途をたどったためだと書かれています。
これは裏を返せば2DCADを扱うニーズが減ってきている現れでしょう。
今はまだ3DCADへの移行ができずに2DCADの仕事が残っている中小企業があるかもしれませんが、今後、2DCADは確実に無くなっていくので、将来的に見ると淘汰される職業になります。
2次元CADが無くならない理由
今まで2DCADは今後なくなるだろうということを書いてきましたが、逆に2次元CADが無くならない理由もあると思います。
3DCADの方が合理的だと分かっていながらも、導入コストや今までのやり方を変えられないなどの理由から2DCADをメインで使っているケースもあります。
一般的にはどの業界でも以下のような理由で2DCADを使い続けているケースが多いのではないでしょうか?
- 中小企業では3DCADやBIMの導入コストがかかる
- 費用対効果が見いだせない
- 現場のベテランが今までのやり方を変えない
- 紙図面のような一覧性が欲しい
- 工場で3Dモデルを見るためタブレット導入など追加コストがかかる
建築業界のケース
現状では個人経営の工務店や業者等、3DCADの導入が必要ない(費用対効果でまだ使わない選択をしている)ようなところではまだ2DCADメインで使用されています。
設計会社も初回のたたき台程度の図面や、業者とのデータのやり取りにはまだ多く使用されている印象です。
建築業界で3DCADを導入するならBIMを選択する企業が主になるでしょうが、BIMの導入にはコストがかかるので、小さな企業や個人の大工さん達には導入を選択されない方もいます。
機械業界のケース
機械業界も建築と同様に町工場のような小さな企業では、今までのやり方で仕事が回っているので、従来通り2DCADを使っているところも多いです。
現場のベテランは、工場で紙図面を広げて、図面を読み取り、加工するような仕事のやり方がしみついています。
もし工場で3D図面や3Dモデルを見て、加工するというやり方に変える場合、それをタブレットなどで見る必要があります。
また紙図面の場合、広げることで図面全体を俯瞰して見ることができるといった一覧性に富んでいました。
例えば、ARゴーグルやARコンタクトで任意の空間に3D図面や3Dモデルを映し、場所をとらず、大画面で情報を閲覧できれば、紙図面を使っていたような便利さを保ちつつ、新しい技術に移行できるでしょう。
2DCADユーザーの今後の対策
現役2DCADユーザーが取るべき対策
今、2DCADをメインに使って収入を得ている人は、収入がすぐに途絶えるのは避けたいところです。
なので、今の2DCADの仕事を続けて収入を得つつ、3DCADやBIM、3D図面といった将来必要になるスキルを今のうちから習得することが必要です。
3DCADであればFusion360をはじめ、無料のものも多くあるので、まずはそこから練習するのも良いでしょう。
今は3DCADやBIMには様々な資格や無料の教材もありますので、今のうちからコツコツと自己学習することがおススメです。
3DCADやBIMの資格や無料教材は以下の記事を参考にしていただければと思います。
求人サイトにはBIM研修を募集のネタにしているところも多いです。
初心者でも働きながらBIM習得ができ、収入を得ながら、BIMスキルも身に付くという一石二鳥ですので、思い切って行動に移すのもありだと思います。
CADオペレーターや建築に特化した転職エージェントも以下の記事にまとめてありますので、転職してみるのもおすすめです。
BIMなど新しい技術などは会社が教えながら雇ってくれるケースも多いです。
CADオペに復帰しようとしている主婦が取るべき行動
昔、バリバリCADを使って仕事をしていた女性が子育ても落ち着き、CADの仕事に復帰しようと考えるのは当たり前でしょう。
その際、気を付けることは昔と今ではCADの技術も進歩しているということです。
もし今も2DCADがメインだと思っていてはいけません。
やはり復帰を機会にBIMや3DCADの仕事への転向を考えるべきでしょう。
今は人生100年時代。
復帰後もまだまだ先は長いので、これを機に今の最新技術を身に付けられる仕事にしたほうが賢明でしょう。
もし40代、50代だからといっても2DCADだけで逃げ切れると思ったら大間違いです。
BIMを使えればまだこの先も仕事があるかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は2DCADの仕事が減っていく5つの理由や現状、その状況を踏まえ2DCADをメインで仕事に使っている人が取るべき行動について書いてみました。
5つの理由をまとめると以下です。
- どの業界も3DCADがメインになってきている
- そして次のアクションとして3DCADの次の技術であるBIM/CIM、3D図面に移行しつつある
- それらの技術によりソフト側で情報処理して様々な自動化が可能になり、それらの自動化もAI技術により高速に改善が回せるようになってきている
- 日本の労働者減少により上記の技術を政府も後押ししている
- 2DCADの職種のニーズが少なくなっている証拠として該当する資格も減っている
DXやAIなどの技術が進んでいくにつれ、2次元CADで作成した図面は不要になっていくことは確実視されています。
人生100年時代に向け将来の収入源がなくならないように今のうちから備えておきましょう。
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