現在、建築業界では、CAD (Computer Aided Design)が多くの場面で利用され、必須ツールと言えるものになっています。
CADは、パソコン等を使用して設計や図面作成を行うことができ、修正や変更、複製等を手書きの場合と比べて容易に行うことができます。
一方、BIM(Building Information Modeling)が近年、急速に普及しています。
BIMはモデル作成をベースとした図面作成や各部材ごとの情報入力ができるツールです。
この記事では、CADとBIMについての基本的な知識について理解を深め、比較しながら解説していきたいと思います。
BIMとCADの違いを知りたい人、日本におけるBIMの導入実態や、最新の活用事例を知りたい人におすすめの記事となっております。
BIM(Building Information Modeling)について
BIMの定義
BIM(Building Information Modeling)とは、パソコン上に作成した建物の3Dモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加することのできるソフトです。
2000年代の米国でのブームと普及を経て、日本にも導入されました。
日本でのBIM元年といわれる2009年から10年以上経過し、近年はさらに普及が進んでいます。
設計から施工、運用・維持管理に至るまでの全てのフェーズで活用可能であるBIMは業界で注目されており、主に図面作成の効率化や、維持管理の情報集約において利用されています。
BIMの特徴とメリット
- 3Dモデルに建具等の情報を付与できる
- 3Dモデルから図面や表を自動で作成、修正できる
- 3Dモデルにより関係者での意思疎通が容易
BIMには作成した建物モデルをベースに柱や壁、建具等の情報を追加することができ、図面や表等に反映させることができるという特徴があります。
連動しているデータを修正することで関係する図面や表等が自動で修正されます。
複数の図面やデータを修正する手間がなくなり、作業が効率化され、ミスが少なくなります。
完全な互換性はありませんが、BIMからCADへのデータ変換も可能であり、多くの関係者間で建物に関するデータ利用が可能です。
また、3Dモデルを作成することで設計・施工での調整や施主側へのイメージの共有が行いやすくなり、より鮮明に意思疎通を行うことができます。
CAD(Computer-Aided Design)について
CADの定義
CAD (Computer Aided Design)とは、パソコンを使用して設計や図面作成を行うことのできるソフトです。
CADは1960年代から発展し、現在では、建築、製造、エンジニアリング等の多くの産業で幅広く利用されています。
CADは現在では、建築業界に必須と言えるほどに普及しており、寸法・数値による正確な図面作成や利用フェーズに合わせた納まり確認・検討において利用されています。
CADの特徴とメリット
CADには、線や寸法を入力することで正確な図面作成や検討をすることができる特徴があります。
パソコン上で作図を行うため、修正や変更、複製等を手書きよりも簡単かつ正確に行うことができます。
また、多くのCADには、「レイヤ」の概念があり、図面の目的や用途に合わせて、表示する内容を変更することができます。
BIMとCADの主な違い
- BIMは3Dモデルの変更に対し図面等も自動反映されるが、CADは図面単位でデータが作成されているため、図面間の連動が難しい
- BIMの方がCADよりデータ作成に時間がかかる
両者は、共に建築業界で利用される重要なツールですが、その使い方と利用範囲は異なります。
BIMは建物の3Dモデルをパソコン上のデータ空間に作り、モデルに入力された情報のアウトプットとして図面や表等に表示します。
一方、CADは建物の図面や表等のアウトプットを直接作成します。
「建物の情報を入力し、入力された情報を表示する手段として図面や表等を作成する」BIMと「初めから目的の図面や表等を作成するために必要な寸法や文字を入力する」CADは同じ図面や表等を作成することに関しても作業フローが異なります。
BIMは3Dモデルの形状や情報を変更すると、その変更が連動する図面に反映されます。
これに対して、CADは多くの場合、図面単位でデータが作成されているため、図面間の連動が難しいです。
CADの種類や使い方によっては修正内容や文字の表示が図面間で連動するものはありますが、BIMのように属性が付与された連動と異なり、表現のみが反映される点が異なります。
BIMは3Dモデルの形状や情報を入力することが必要になるため、入力や図面への表現設定がされると、その後の修正や情報の追加、データ管理は容易になりますが、作成にはCADの単体図面の作成に比べ、時間がかかります。
ブロックプランや平面の概略検討、部分的な納まりや検討を例に挙げると、BIMでの作業は、高さ、属性、部材の詳細設定等の不要な情報も含まれるため、CADの方が早く作成することができ、データが軽いため、取り扱いが比較的容易に行えると言えるでしょう。
現在でもCADが普及しても手書きの方が早い場合もあり、全てにおいてCAD化されていない部分があると思います。
両者とも各々の特性があり、目的や場面によって選択し、使い分けを行えると良いでしょう。
日本におけるBIMの導入実態
他国に比べて導入実態はどうか?
日本のBIMの導入は、他国に比べて遅れている傾向にあると言えます。
海外では導入が積極的に進んでいます。
基本的には政府発注の公共事業においてBIMの使用が義務づけられることで導入が進んでいることが多いようです。
また、大学等でも積極的にBIMの教育を行っている国が多く、公共事業のBIM導入義務化と合わせて、学校教育も推進に寄与しているようです。
日本における導入実態
日本においても政府による推進は行われています。
国土交通省でも「BIM活用ガイドライン」や「建築BIM推進会議」等、推進されており、今後も推進は行われていくと思われます。
国土交通省の「建築分野におけるBIMの活用・普及の実態調査」によると導入状況は、総合設計事務所81.2%、総合建設業48.8%となっており、会社の規模が大きくなるほど導入率は高いようです。
日本のBIM人材の数
日本のBIM人材については、不足している状態であると言えます。
国土交通省による「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査 確定値<詳細>」によると、導入していない企業の中には、「BIMを活用する人材がいないため、人材育成・雇用に費用がかかるため」という理由を挙げている企業も存在します。
所属部署におけるBIMを活用する人材の充足状況についても「充足している」・「やや充足している」と回答した企業は11.8%と少ない数値です。
企業で導入の障壁の一つにBIM人材の不足も関連していると考えられるでしょう。
逆にこれからBIMを習得したい人や、現在BIMオペレーターの仕事をしている人にとっては、就職や転職に困らないであったり、場合によっては年収アップも狙えると思います。
転職を考える場合は、以下の記事にあるようなCADやBIMに強い転職エージェントに複数登録して転職活動するのがおすすめです。
今すぐに転職を考えていなくても、まずはゆるく、仮の転職活動をしてみると自分の市場価値なんかも知れて有意義だと思います。
BIMを使った最新活用事例
建築物のエネルギー消費最適化
BIMを使い設計の段階で検討やシミュレーションによる可視化を行うことでエネルギー消費を最適化することができます。
BIMモデルに入力済みの外皮仕様,空調負荷・照明器具設定等を利用することで、建築物のエネルギー消費を最適化するための設計が可能となり、建築物全体のエネルギー効率を向上させることができます。
個々にシュミレーションすることのできるソフトもありますが、様々な図面やデータ間の行き来を必要とせず,BIMモデルの中で条件と結果が連動し整合を図ることができる点はBIM活用のメリットと言えるでしょう。
施工管理の高度化
BIMを使うことで、複雑な形状の施工も現実化しています。
2次元では読み取ることのできないうねる屋根を施工する際に形状や雨水排水の検討等にBIMを利用することで、実際に施工されています。
最初から完璧なモデルを目指すのではなく、プロセスごとに情報を反映し、工事と共にモデルを変化させることもBIMの活用方法の一つと言えるでしょう。
建物の維持管理の効率化
BIMは建物の維持管理の効率化にも利用可能です。
BIMを活用することで、建物の3Dモデルと属性情報を一元管理することが可能となります。
建物の維持管理に必要な情報を迅速に取得し、適切な維持管理を行うことが可能となります。
モデルに入力された情報を活用し、維持管理のデータベース整理や修繕計画を立てることで建物が建った後にもBIMを活用することができます。
まとめ
今回は、建築業界で広く利用されているCADと、近年急速に普及しているBIMについて比較しながら解説しました。
両者とも各々の特性があり、どちらも建築業界での重要なツールとなっています。
日本ではBIMの導入は課題も多いですが、設計から施工、運用・維持管理に至るまでの全てのフェーズで活用可能である点は非常に注目されています。
人材は不足している状況ですが、活用の事例も増えてきており、今後も増加すると思われます。
CADが主流となっている現状はしばらく続くと思われますが、あなたが直接、BIMと遭遇する日も近いのかもしれません。
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