「積算」とは建築工事の費用を算出する業務のことです。
このような業務にあたる、専門的な知識や技術を持っていることを証明する資格として「建築積算士」があります。
今回は、積算業務の経験がある筆者が、建築積算士の資格の取得メリットや将来性について解説します。
建築積算士の仕事内容
公共工事では、公平かつ公正に施工業者を選定するため、一般競争入札で複数の業者に工事価格を競わせて業者選定を行います。
この競争入札の仕組みの中で、実際に施工可能な金額を抑えつつ、他社より有利な金額を提示することが積算士の仕事です。
公共工事の積算の場合、国土交通省や都道府県などが監修・編集している積算基準や要領、単価をもとに積算を行います。
民間工事の場合も、設計図書を読み込んで、見積もりの元となる工事費の算出を行います。
民間工事の場合、必ずしも入札が行われるわけではなく、特命で設計業者が選定されることもありますが、受注者と発注者の合意がなければ契約が成立せず、工事を行うことができません。
双方が納得して契約を成立させるため、正当な根拠に基づいた工事価格を提示する必要があり、そのための積算業務が必要になります。
また積算士には、設計事務所や建設会社、ハウスメーカーなどの設計業務を担当する部門においては、コスト管理の側面もあります。
この場合には、積算士は、設計を実現するために必要な金額を算出し、施主の予算内で希望を叶えるためにはどうすれば良いかを設計者と検討します。
建築積算士の取得メリットと年収
建築積算士の資格取得のメリットは、以下のようなものが挙げられます。
転職に有利である
建築積算業務は、建設業界においては必ず必要とされる業務です。
そのため、資格を活かして大手企業や官公庁への転職を有利に進めることができます。
一般企業においては、入札参加資格審査で建築積算士の在籍が加点対象となり、入札で工事を受注するのに有利になるため、有資格者が必要とされています。
また官公庁においては、入札を行う際に、予定価格と呼ばれる発注者側の工事の見積もり額を算出する必要があり、建築積算業務ができる人材が必要とされています。
建築積算士は、大手・中小企業を問わず必要とされており、また民間企業のみならず官公庁でも活躍できる資格です。
年収アップにつながる
建築積算士は、多くの企業で資格手当の対象になる資格ですので、年収アップにつながります。
また上述のように、転職にも有利ですから、大手企業へ転職して年収アップを狙うことも可能です。
資格を活かした副業が可能
建築積算士は大変必要とされている資格ですので、副業も可能です。
クラウディアやクラウドワークスなどのクラウドソーシングでも、積算の業務依頼の案件が散見されます。
本業の傍ら、資格を活かして副業を行い年収アップにもつなげることができます。
キャリアのステップアップが可能
建築積算士は、建築工事費算定の専門家です。
資格を取得することで、その知識と技術を持っていることの証明になります。
また後述する建築コスト管理士と呼ばれる上位資格の取得を目指すことで、さらなるキャリアアップを狙うことも可能です。
なお、建築積算士の平均年収は、422万円と言われています。
ただし、これはあくまでも平均ですので、実際の年収にはかなり幅があります。
年齢別の平均年収を見ると、以下のようになっています。
20代前半 | 347万円 |
20代後半 | 394万円 |
30代 | 484万円 |
40代以上 | 519万円 |
年齢が上がるほど平均年収は高くなっています。
経験が豊富になるほど、年収が高くなる傾向があるといえます。
建築積算士として年収アップを目指すには、ただ資格を取得するだけでなく、経験を積むことも必要です。
建築積算士の将来性や今後あると有利なスキルやキャリアアップ
BIM(Building Information Modeling)を使えるスキル
建築積算の業務は、建築工事がある限り必要とされる業務ですので、将来的になくなってしまうことはないでしょう。
近年では、BIMの普及により、積算業務もかなり省力化されるようになりました。
BIMとは、Building Information Modelingの略称で、コンピュータ上に建物の立体モデル(BIMモデル)を作成し、設計や工事に活用しています。
BIMを使うと、建物を構成する建材の一つ一つに製品情報や価格の情報を持たせることができます。
積算の段階では、各建材や部材の必要数量や価格をある程度自動で算出することができるため、省力化につながります。
一方で、まだBIMと積算システムの連携に課題が残っています。
例えばBIMからの算出数量が必ずしも正確ではないことや、BIMで数量を算出するためには、算出したい部材をすべてモデル化する必要があり、これに大きな労力を要することなどです。
そのため、やはり最終的には人間の手でチェックする必要があります。
BIMが普及し始めてもなお、建築積算士の需要は大きいと言えるでしょう。
また、以上のことから考えると、建築積算に精通しており、なおかつBIMを扱うスキルがあれば、今後のキャリアにかなり有利だと思います。
建築積算士資格を取得後も、さらなるキャリアアップを目指す必要があります。
前述のように、積算業務は経験豊富なほうが有利な業務であり、経験が豊富であるほど給与も高くなるからです。
BIMを学ぶなら以下のスクールの中から選ぶのがおすすめです。
建築コスト管理士と積算士の違い
日々の業務で経験を積むことももちろん大切ですが、建築積算士の上位資格である「建築コスト管理士」の取得を目指すのも、キャリアアップにつながると思います。
建築コスト管理士は、公益社団法人 日本建築積算協会によると、企画・構想から維持・保全、廃棄にいたる建築のライフサイクル全般に渡って、コストマネジメント業務に関する高度な専門知識及び技術を有する専門家です。
積算の知識はもちろん、コスト情報収集・分析、発注戦略、施工技術・工期算定など、より幅広い分野の知識が必要とされる、建築積算士よりもさらに専門性の高い資格です。
建築コスト管理士になると、プロジェクトのコストマネジメント業務全般を管理することができます。
そのため、プロジェクトリーダーや、コスト管理者などの業務にあたることができるでしょう。
工事費用の積算だけでなく、さらに視野を広げて建物のライフサイクルコストの管理や、プロジェクトマネジメントに興味がある方へもおすすめの資格です。
建築積算士のおすすめ転職先
建築積算士は需要の大きい資格です。そのため、資格を活かして、転職で年収アップを狙うことも可能です。
ここでは、おすすめの転職先を紹介します。
大手ゼネコン
大手企業は年収が高い傾向にありますので、大手ゼネコンを狙ってみるのもおすすめです。
ただし、大手の場合は採用希望者も多いと思われますので、資格だけでなく、経験を十分に積んでアピールできるようにしておくのが良いかと思います。
また、大手ゼネコンの場合、グループ会社として積算専門の会社を持っていることもあります。
例えば、株式会社TAK-QSは竹中工務店のグループ会社であり、積算業務を専門に担っています。
キャリア採用情報に給与の記載がありませんが、大学卒の初任給から年収を計算すると300万円程度ですので、キャリア採用の場合は、年齢に応じてもう少し高くなるのではないでしょうか。
大手設計事務所
大手設計事務所も大きなプロジェクトを推進するため、積算について専門的な知識を持つ人が求められています。
例えば、株式会社日建設計では、キャリア採用として「コストマネジメント」の職種があります。
こちらも給与について明確な記載はありませんが、モデル年収が30歳で750万円ですので、他の企業と比べてもかなり年収が高いのではないでしょうか。
官公庁
積算業務は発注者側も行うため、官公庁への転職も可能です。
年収は一般企業に比べると少ないかもしれませんが、安定性を求める方にはおすすめです。
積算士におすすめの転職エージェント
以下に積算士におすすめの転職エージェントをご紹介しておきます。
積算士の転職を成功させるコツは、以下でご紹介する転職エージェントに複数登録することで、自分に合った転職先に出会える確率を上げることです。
・建築業界に特化している転職エージェントを選ぶことで業界の求人情報に精通し、専門用語も分かり、あなたの経歴を理解してもらえる
・各転職エージェントも扱っている求人に違いがある
・転職エージェントの担当者も人なので、相性が合わないや知識量に差があったりする
複数の転職エージェントの中から、最終的には自分に合ったところで転職活動を進めていくようにしましょう。
建築転職
- 建設業界で働く人が選ぶ 転職エージェント3冠達成!
- アドバイザーは、建築関連の国家資格者が中心
- 施工事業者が手掛ける転職エージェントのため高いマッチング率
建築転職という名前のとおり、いかにも建築業界に精通していそうです。
登録は30秒ででき、無料なのが嬉しい所です。
登録はホームページ内にある以下のようなチャットから、まずは建築業界の職種を選ぶところからスタートです。
ここで積算を選ぶ事ができます。
KSキャリア
- 建築建設業界への強いネットワークあり
- 建築業界での就業経験のあるエージェントが在籍している
- 建築建設業界でキャリアアップしたい人を支援
KSキャリアは建築業界に強い転職エージェントで、東証プライム企業・KEIAIグループの人材紹介会社です。
取り扱い職種の中にバッチリ「積算」があります。
キャリアアドバイザーがあなたに合った積算の転職先を紹介してくれますよ。
キャリアアップコーチング
最近はキャリアコーチングというサービスが出てきました。
そもそも自分は何がやりたいのだろうか?自分に合っている仕事は何だろうか?など積算士の仕事に限定せずに、自分の将来のキャリアについて相談できるサービスです。
中でもキャリアアップコーチングは、様々なキャリア理論とコーチングメソッドによって、今までの人生・キャリアからを振り返り、自身の大事な価値観や考え方から本当にやりたい仕事を導き出します。
全額返金制度まであるので、自分の将来やキャリアに悩んでいる人には特におすすめです。
建築積算士の試験内容や難易度は?1次試験と2次試験の違いは?
ここからは、建築積算士の資格試験について、試験内容、試験の種類、受験資格、受験料、受験者数と合格者数(難易度)について説明します。
公益社団法人 日本建築積算協会 2023年度「建築積算士」試験案内
試験内容
建築積算士として求められる知識の具体例は以下の通りです。
知識 | 詳細 |
生産プロセス | 建設産業の特徴と変遷及び現状、コストマネジメントの考え方、建築生産プロセスとマネジメント |
工事発注スキーム | 入札の種類、発注方式、契約方式、数量公開、発注単位(パッケージ) |
設計図書構成 | 設計図書構成と種類、優先順位 |
工事費構成 | 直接工事費と共通費の構成、主要建物用途の種目別工事費構成比率 |
積算業務内容 | 積算業務の流れ、積算実務(仮設、土工、躯体、仕上、設備、屋外施設、改修)、概算手法の概要、値入業務 |
数量積算基準 | 基準及び同解説の理解 |
標準内訳書式 | 基準及び同解説の理解 |
主要な市場価格 | 市場価格、コスト情報の入手方法 |
データ分析と積算チェック | データ整理、歩掛、分析方法、積算チェック |
施工技術概要 | 建築施工プロセス、標準的な施工法、特殊工法(省力化、工業化、工期短縮等)概要 |
LCC・VE概要 | LCC(ライフサイクルコスト)の概要、VE(バリューエンジニアリング)の概要 |
環境配慮概要 | 環境配慮とコスト概要 |
試験の種類
建築積算士の試験には、1次試験と2次試験があります。
内容はそれぞれ以下の通りです。
1次試験 | 2次試験 | ||
試験内容 | 基本知識に関する問題 | 短文記述試験 | 実技試験 |
試験時間 | 3 時間 | 1 時間 | 4 時間 30 分 |
出題範囲 | 建築積算士ガイドブック全章(平成 29 年版建築数量積算基準・建築工事内訳書標準書式の主要な部分は、ガイドブックに記載) | 建築積算士ガイドブックのうち第 1 章~第 4 章、第 9 章~第 15 章 | 建築積算士ガイドブックのうち第 5 章~第 8 章、巻末の基準類 |
問題数 | 50 問 | 2 問 | 躯体(コンクリート、型枠、鉄筋)、鉄骨、仕上、内訳明細作成・工事費算出 |
問題形式 | 4 肢択一 | 問題に対する解答を短文(200 字以内)で記述 | 図面に基づき、数量を計測・計算する。内訳明細を作成する |
受験資格
1次試験 | 2次試験 |
2023 年 4 月 2 日現在、満 17 歳以上(2006 年(平成 18 年)4 月 1 日以前に生まれた方)であれば、学生、 社会人の方すべてが受験可能 | 今年度一次試験に合格した方、及び一次試験を免除された方 ※一次試験免除対象者:次のいずれかに該当する方は、一次試験が免除される 公益社団法人日本建築積算協会が認定する建築コスト管理士、建築積算士補 |
受験料
1次試験 | 2次試験 |
27,500 円(学生会員は 13,750 円) | 27,500 円 (今年度一次試験合格者は不要)(建築積算士補、学生会員は 13,750 円) 2次試験合格者は登録時に登録手数料として13,200 円が別途必要 |
受験者数と合格者数
直近3年の受験者数と合格者数は以下のようになっています。
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率(%) | |
1次試験 | 2022年 | 390 | 223 | 57.2 |
2021年 | 361 | 244 | 67.6 | |
2020年 | 323 | 171 | 52.9 | |
2次試験 | 2022年 | 778 | 452 | 58.1 |
2021年 | 759 | 491 | 64.7 | |
2020年 | 523 | 330 | 63.1 |
過去3年の実績を見ると、1次試験、2次試験ともに50~60%の合格率で推移しており、比較的難易度の低い試験であるといえます。
ただし、専門的な知識が求められるため、未経験者には難しい試験です。
建築積算士の勉強方法と対策
建築積算士の試験は、建築積算士ガイドブックから出題されます。
そのため、まずはガイドブックを読み込むことが重要です。
また、試験は過去問と同様の問題が出題されるため、とにかく過去問に取り組むことが最も効率の良い勉強方法といえます。
なお、過去問は日本建築積算協会のホームページで公開されています。
ガイドブックさえ購入すれば、過去問は無料で手に入るため、独学でも対策しやすい試験かと思います。
経験のない方は、日本建築積算協会の各地方の事務所が主催する研修会や講習会などに参加し勉強するのも有効でしょう。
なお、勉強時間は2次試験のみの場合で200時間程度と言われています。
1日2時間程度の勉強時間を確保できれば、3か月で対策ができることになりますので、資格試験の中では比較的勉強時間の短い試験といえるでしょう。
まとめ
建築積算士は、需要が大きく、将来性もある資格です。
試験も比較的難易度が低いため、きちんと対策すれば取得可能な資格であるといえるでしょう。
また、需要が大きい分、転職にも有利であり、資格を活かした副業も可能なため、年収アップを目指せる資格であるともいえます。
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